
ここ数日は、ぐっと入り込むようにして金原ひとみの新刊「ヤブノナカ」を読んでいた。
読み終わってしばらくはぐったりしてしまったほど、濃密できつい作品だった。
彼女の世界に対する眼差しは私にはいささかダーク過ぎてしんどいし、基本的に、現在進行形の「今」を小説に落とし込むのは早すぎる、何かについて本当に語るにはだいたい20年くらいの時間を要する、という考え。
だから、本作にも生煮え感を感じるところはあったのだけど、それでもこれほどの本気さと筆力で現在進行形の現状を作家の視座で語ることは、間違いなく大きな意義を持つことだと思う。
作家ってすごいなあ。
あらゆるものから目を逸らさず、俯瞰で凝視するように、本質を射抜くように見つめる。
時代のヴォイスを毒も含めて丸ごと自らの体内に取り込み、ガリガリと咀嚼し、おそらく頭から湯気が出るほど苦悩しながら作家の言葉に落とし込んで、再び世界にストーリーという形にして差し戻す。
彼女がひりひりと感じているであろうヴォイスは、正しさを越えて、ある種の人々にとっての真実であろうと感じる。
自分には理解し得ない異質な他者たちの視点をいくつも見せてくれる作品だったし、けして明るいものではないにせよ、一つの道標となる作品でもある。
本質に辿り着くために、作家が身を削ってこの作品を紡いで見せてくれたことを、とても痛ましく思いながら、感謝する。
どうか彼女の日常が出来るだけ穏やかなものであってほしいと願うが、こんなハードなことを好き好んでやるのは、そのようにしてしか生きられない人だけだよなあとも思う。
それでも、書くことに対してこれほど何ひとつタブーはないという捨て身の姿勢になれたら、ある意味無敵だ。
実にシンプルで嘘の少ない人生だと思う。
読後、金原氏に興味が湧いて、いくつかインタビューを読んだが、予想通り主要人物の長岡友梨奈は、金原氏自身をかなり投影した人物。
でありながら、友梨奈という人物の歪みを見据えて冷徹に描き切っている。
最後に友梨奈は自分のエゴにのたうち狂って死んでいくのだから、すごい。
私は、私の中にも友梨奈がいることに苦しさを感じながら読んだし、他の登場人物たちにも、それぞれに誰かしらが思い当たった。
世代論ってあまりに雑で大雑把なことだとは思うけれど、人間が社会的な生き物である以上、特定の時代背景を生きるなかで共通してくる要素はやはりあると思う。
枠にはめたり、レッテルを貼るのではなく、ある種の十字架としての世代という観点には自覚的でありたいと思う。
そういう意味で、私は長岡友梨奈であり、橋山美津であり、西村小夏である。
夫氏は木戸悠介であり友梨奈の夫であり、娘氏は安住伽耶であり越山恵斗でありリコである。
私のような小物は、ありがたく物語の力を借りよう。
友梨奈のありようを反面教師にして自省したいし、木戸や一哉や五松を通して男性の思考を想像するための手掛かりにしたいし、伽耶や恵斗やリコを通して若い世代の感覚を少しでも理解したいと思う。
なんと言っても短い人生、出来るだけ周囲の人たちと仲良く、幸せな気持ちで過ごす時間が長いに越したことはないのだ。