みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

性暴力についての覚書き④(家父長制下の性虐待、グルーミング)

その才能を見出し、育て、スターにしてくれたジャニー氏に対して、恩を仇で返すとはこのことではないか。

ジャニー氏は半世紀に渡って日本の芸能界を牽引し、スターを育て、その非凡な才覚で何億何千万という人々を楽しませ、夢中にさせてきた。昨今の流れは偉大なジャニー氏の慰霊に対する冒涜、日本の恥である。

【家父長制下の近親者・権力者・指導者からの性虐待とはどういうものか】

近親者、権力者、指導者による性加害は、家父長制と深く関わっている。

家父長制は、力によるヒエラルキーによって構成される。

家父長制においては、優位で経済力のある成人男性は支配者であり、主に女、子どもを中心とした劣位の者は彼らの所有物である。

相手を意志を持った人間とみなしていないので、同意が必要という発想もないし、強制しているという意識もない。

自分の思い通りにするのが当たり前のことだと考えている。

 

彼らは性加害を「かわいがり」「愛情表現」「溺愛」として正当化する。

被害者は「かわいがられた」と思わねばならず、加害者像を結べない。

特に幼い子供にとっては、性行為はまだ意味のわからない行為で、拒むのは不可能なほど圧倒的な力の差もある。普段怖い相手がとてつもなく優しくなる行為でもある。

そのため、多くの被害者が「乖離」を起こし、生涯にわたって苦しむ。

一方で、家庭や自分が王として君臨する組織における性加害者たちは「何をやっても許される自分にとっての解放区」だと考えているだけの場合が多い。

性暴力においては、加害者と被害者の間には圧倒的な非対称性がある。

また、近親者・指導者による性虐待は、多くが何年何十年にもわたって長期的に続く暴力である。

最も安心できる場所、関係であるはずの親や養育者に加害されるため、被害者は世界の根幹が揺るがされてしまう。

 

ジャニー氏が生涯をかけてやってきたこととは、家父長制に基づく疑似家族構造の中で、圧倒的な権力で少年たちを思いのままにするシステムを作り込んできたこと。

つまり「スターにする」ことと引き換えに、少年をまず性的に、その後は所属タレント(労働者)として二重に搾取している。

タレント事務所というよりは、人身売買に近い性格を持つ。

後述するが、被害者たちがそれを「恩」と認識するのは、グルーミングによるマインドコントロールにあたるし、そもそも「合宿所」という建てつけを持っていること自体が、ジャニー氏が当初から明確に性加害目的を持っていたことのひとつの証明になっている。

いかに芸能界で大きな力を持ち、多くのファンを喜ばせるタレント事務所であろうと、ジャニーズ事務所がジャニー氏の少年への性的欲望を満たすために作り込まれた組織であるという性格を持つ以上、そのままの形で存続していいわけがないだろうと思う。

 

それから、この資本主義の社会では単に経済的に成功した人を、非凡とか偉大とかよく言うけれど、お金儲けの才覚が優れていることは、お金儲けが得意な人なのであって、尊敬できる人物であるかどうかとは何の関係性もないと私は思う。

むしろ、不当に多額のお金を自分で抱えている人は「誰かの労働や人生の時間を盗んでいる人」だと私は認識している。

また、冒涜とは、崇高なものや神聖なものを汚されたことを意味する。

まだ性の知識も持たない年若い少年たちへジャニー氏が行った性加害こそが冒涜というのだと思う。

そして、この国の社会と人々が、このような犯罪に向き合わず、見て見ぬ振りをし続けることこそ「日本の恥」だと私は思う。

 

私はジャニー氏をよく知っている。事務所の子を我が子のように愛しく大切に可愛がり、ワゴンに沢山のお弁当を載せて自ら各楽屋に配っていた。

【グルーミングについて】

性加害者が被害者に対して優しく振る舞うのは、相手を安心させて警戒を解くためと、無理強いではなく相手も喜んでいるという正当化のための典型的な態度である。

「グルーミング」は、当初から性的な目的を持ちながら、それを隠して未成年者を手なずけていくための詐欺であり、マインドコントロール的行為である。

性についての知識や価値観をまだ持たない未成年者に、加害者にとって都合の良い価値観を植え付けていく。

 

グルーミングの手順は、

1. まず信頼関係を作り

2. 加害者がいかにすごい人間かという権威の植え付けをして相手を圧倒させ

3. 全て自分に任せれば大丈夫だと誘導していく

というもの。

加害者に対する疑念の回路を塞ぎ、判断能力を奪う。

 

そのため、加害者の社会的地位が高かったり、特定分野の秀でた才能をもつ「社会的に尊敬される」人物の場合、被害者は目をかけられる嬉しさから、よりマインドコントロールされやすくなる。

また新興宗教も同じだが、グルーミングではマインドコントロールを高めるために、心理的・社会的遮断を行う。

自分以外の他者は皆敵で無理解で悪者だと思わせたり、二人だけの秘密だと言うことで心理的に外部から遮断する。

社会的遮断に最も効果的なのが合宿生活。

物理的に守ってくれる家族から引き離され、その集団内の論理が絶対化する。

特に日本の部活や特殊技能の集団は、ヒエラルキー構造を持つので、コーチやリーダーを絶対視し、批判は許されないという刷り込みがなされる。

このように「世界を閉じられる」ことで、被害者は思考停止し、加害者に支配されてしまう。

 

ジャン・コクトージャン・マレーを愛したように、そのような特別な世界、関係性というものはある。

ジャン・マレージャン・コクトーに出会ったのは24歳の時。

大人になってから出会い、互いの自由意志で生涯唯一無二のパートナーであり続けた人たちと、ジャニー氏のように60年以上にわたっておそらく何百人もの少年たちを日替わりで性加害してきた人物とを、「年の差と同性愛」というキーワードだけで安易に同一視するのは、あまりに稚拙で、差別を助長する悪質なロジックだと思う。