みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

「口の立つやつが勝つってことでいいのか」

 

頭木弘樹著/青土社/2024年

このタイトル、まさに自分が常日頃から思っていたことだったので、わっ読みたーい、と思ってすぐに入手した。平易で読みやすい本で、あっという間に読める。

内向的でずっと家にいて、腑に落ちるまでしつこく考え続ける癖を持つ人の思考の世界は、私にはなじみ深い。類友感あったな・・・。

 

タイトルの問題提起だけではなく、身の回りや社会の色んな事象を「普通を疑う力」でもって、いやいやちょっと待てよ、と立ち止まって考えている。

というか、もはや思考の逆張りは、この著者の生きる基本ラインみたいになっている。

こういう人は、世間一般では、あまのじゃくとか、ひねくれてるとか、めんどくさいと評されがちなのかもしれない。

でも、著者のあくまで素朴に問う姿勢、大らかさと優しさをたずさえた語り口は、私にはわくわくと面白く、好ましいものだった。

 

日頃から思うのは、人は厳しい真実を嫌う、聞きたがらないものだということ。

目の前に気まずい現実や、矛盾を体現するような人がある時、人はしばしば「そんなものはない」「そんな人はいない」って言う。

でも、(このフレーズ、ブログでしょっちゅう書いている気がする・・・)あるものはある。

それらをまるでないみたいに扱って、見たい部分だけを見ることはわりと多いし、それに基づいた普遍的な真理っぽい、名言ぽい断言調の言葉は身の回りに溢れている。

 

もちろん、自分も全部を見てる訳では到底なく、誰しも限界はあるゆえ、そうなるのは無理からぬものだとも思う。

でも、真理めいたことを言い切る人の言葉には大抵、言い切った先の具体的説明は特にないので、物足りなく感じたりもする。

 

そんな私だから、どんなことでも底網漁みたいに全部回収してしまうみたいな、宗教やスピリチュアルの語り口には、どうしても身を委ねきることができない。

真摯に考え、信じて生きている人々を否定したい気持ちはみじんもなく、むしろ尊敬している。

けれど、私は彼らと同じにはなれそうにはない。

そういうある種万能な人生の法則的なものを、心から信じられたら幸福なんだろうなあと思って、信じる方向に自分を寄せてみたりしたこともあったけど、結局だめだった、疑う力が強すぎて、苦笑。

 

そしてこの本の著者もきっと、「これがあるよね」って真顔で言って、なんて空気読めない奴だって言われて、引かれたり嫌われたりしたことがある人だと思う。

気まずい事実があるってことは、全部がネガティブと言いたいわけではなく、いつだって両方があると思うのだが、なかなかうまく伝わらない。

正直であろうとすればするほど、人に嫌われてしまうような気がする。

 

きれいなもの汚いもの両方にまみれて、無様に生きるしかない。

悩みや不満も不運も後悔もなくなることはない。

でも、人生は捨てたもんじゃないな。

そういうものに触れた時に、私は希望を感じられる気がする。

この本は、そういう本だ。