みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

娘氏、パリへ

土曜日。今週もなんとか週末にたどり着いた。

ここ最近、週末は夕方から眠ることの多い末っ子は、珍しく昼間に寝落ちしてくれた。

 

今週の初めに娘氏がフランスに旅立ち、今我が家はものすごーー く久しぶりに幼児と夫婦のみの暮らしになっている。

今回は1ヶ月で戻るとはいえ、また家族のステージが変わったなと実感している。

ていうか、振り出しに戻った感がすごい。デジャブだ。

かわいい子には旅をさせねばならないが、息子氏の時と同じで、やっぱり巣立ちを見送るのはさびしいものだ。

衣替えをしたり、仕事をしたり、末っ子の世話をしたり、お出かけをしたり、なんやかんやで慌ただしく日々は過ぎていくけれど、どこかぽかんとして、地に足がつかない。

あれ、私何がしたかったんだっけ。よく思い出せないな、みたいな。

困った困った、早いとこ立て直さなくっちゃ。

 

無事にパリ郊外の息子氏のアパートに着いた娘氏は、部屋の狭さと足の踏み場もない散らかりように愕然としつつ、時差ぼけの中、1日半かけてせっせと部屋を片付け続け、自分の寝るスペースをなんとか確保したらしい。

スーツケースの半分は息子氏リクエストの日本食材だったのだけど、電話した時も息子氏はありがとうの一言もなく、まったく腹が立つ。

この忙しい時に妹を押し付けられて全くもう、という風情を漂わせている。

 

急に持ち上がったパリ行きで、娘氏には今回これといったプランもない。

身の回りのものと撮影機材以外はほとんど何も持たずにふらっと行ってしまった。

それでも、今はスマホがあるのでそこまで心配はなく。

むしろ、スマホができたことで冒険というものが消えてしまったね、と夫と言い合っていた。

さて、どんな休暇になるのやら。楽しみだな。

 

昨日は、散歩途中に小さな噴水のある公園みたいなところから電話をくれた。

ここの豊かさってすごいなと思う・・・と娘氏は呟いていた。

「町のいたるところに緑があって、気持ちの良い木陰があって、ベンチがあって。

もちろん(排除アートの)変な金具なんてどこにもついてないし。

家の中と店以外でどこにもただいられる場所がない、座る場所もないうちの近所とは全然違う。

日中から芝生で寝っ転がってのんびり過ごしているような人が、町のあちこちにいる。

今はまだ疲れちゃって何も考えられないんだけど、なんなら旅のあいだじゅう、こうやってずっとふらふらして過ごすことも全然できるなって感じだよ」

 

着いた次の日には、息子氏がしょっちゅう食べに行っている近所の無料の食堂で一緒に食事したよと画像を送ってきた。

息子氏もたまに画像を送ってくるのだが、この食堂はだいたい週5日やっていて、常にこのクオリティの食事が誰でも無料で食べられる。

どういう仕組みでこういうことになっているのか、例によって息子氏は全く説明できないのでさっぱりわからず、にわかには信じがたいと思うばかりだ。

もしもくださいと言えば、食べた分とは別にもう一食お持ち帰りすることもできるのだそう。

お金の余裕がなく、生活が苦手でまともに自炊してないだろう息子を心配している母としては、感謝しきれないくらい、ひたすらありがたい。

食堂のインテリアも心地よく、ご飯も美味しく、スタッフのホスピタリティも素晴らしかったと娘氏はすっかり驚いていた。

 

「それなのにただ簡単なの。なんの条件もないし、何も注意されないの」

彼女が言いたいことはよく分かる。

日本では、何かを無料でしてもらったり福祉サービスなどを受ける時、証明書や資格などを求められたり、住所氏名年齢を書かされたり、こまごまとルールを説明されたり、条件に反したら対象外になるって脅されたり、些細なことで注意を受けたりってことがいちいちいちいちついてまわる。

だいたい、自分の銀行口座を作ったり預金を下ろすにも、目的や使途を聞かれる昨今だ。なんの権利があってそんなことを言うのと思ってしまう。

 

そういう一切が何もなかった、ということ。

何をするにもルールでがんじがらめなのが当たり前の中で育ってきた娘氏にとって、ただ気持ちの良い挨拶と笑顔だけでシンプルに整った食事が供される、以上、ということは、かなりびっくりするようなことだったのだ。

 

昨夜はどうしてたの?と聞くと、夕方から息子氏と友達数名と楽器を持って公園に行って、芝生に座ってみんなでおしゃべりしたり、自分のできる楽器で即興で合奏とかしてたよ、と言っていた。

息子氏はクラリネット。バイオリンやチェロなんかに合わせて、娘氏はギターを弾いて歌ったんだそうだ。

そっかそっか、楽しそうだねー、とにっこりする。

 

今のところ食べ物はなんでも美味しい、特にバゲットやクロワッサンは安くて大きくてめちゃくちゃ美味しい。

でも物価やばい、息子氏があまりにも何もない状態で暮らしていたので(洗った食器を置くかごさえなかったらしい)100均で買えそうな雑貨をまとめ買いしたら7500円くらいかかったと言っていた。ぐはあああ円安〜〜!泣。

 

まあ何はともあれ、息子氏が友達にも恵まれて、それなりに充実して音楽も一所懸命やっている様子を娘氏から聞けて、ほっとして嬉しく思った。

息子氏は言葉にするのがとにかく苦手な人で、毎日何して過ごしているのかを私はほとんど知らない。

たまの電話で今日はどうだったのと聞いても普通だったーとか、忙しかったーとか暇だったーとかしか言わない。

「朝からこんなことして、楽器の練習もまあまあやってて、今はどこそこに行ってて、夕方からはバイトだって」と、初めて娘氏からまともな報告を聞くことができただけで、派遣した甲斐があろうというものだ。

 

今困っていることを聞いたら、「兄が人の労力を軽く見ていてむかつく、あいつと一緒に寝起きするのはきつい」ということ以外に、「『近く』の概念がみんな変」と言っていた。

パン屋近くにあるから行こうってなったら、25分とかてくてくてくてく歩く。

みんなで近くの公園行こうってなったら、メトロ乗って降りてさらにてくてく歩いて40分とか。

「みんな早足だし、とにかくめっちゃ歩く。近くってさ、普通徒歩10分圏内のことだと思わん?」

そういえば息子氏も、高2で初めてのパリ滞在で、地元の友達にパリ案内をしてもらった時、友達が一日中、普通に10キロとか喋りながらひたすら歩くからヘトヘトになった!と言っていた。

そんな彼も、もうすっかり町に馴染んで、自分も早足てくてくピープルになっているのだなあ。

 

私は勝手に心配してるけど、子供たちは平気そうにどんどん歩みを進めてる。

もう役目はほぼ終わってる。

子供は育ったらぱっと手放し、お世話という名の介入や邪魔をせぬようにするに限るんだろうな、私はどうせろくなことをしないんだから。

 

さ、末っ子が起き出す前に夕飯作りに取り掛かろう。