みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

ガチギレているフランス、無力感の中の日本

パリでのデモやストライキの勢いが止まらない。

息子氏が働くパリ中心地のレストラン前の通りでは、ものすごい数のデモ隊が通り、数日前には警察隊に連行される人を目の前で見たという。

交通インフラが安定しないことにももう慣れっこになっている様子。基本、何があってもひょうひょうとしている息子氏ではある。

危ないところには行かないように気をつけなきゃだけど、今起こっていることを自分の目でしっかり見ておきなよ、と伝えた。

 

1月にフランスのデモに関する記事を書いた時は、こんなに長引くとは思っていなかった。けれど、マクロン大統領が憲法49条3項を用いて、議会での審議を経ずに法案を成立させてしまったことで、人々の怒りにさらに火がつく状況が起こっている。

世界的な傾向として、先進国がどこも少子高齢化が加速していく中で、何としても退職年齢を引き上げたいというのが、歴代政府の本音。

超エリート出身で元銀行家、新自由主義的考えを持つマクロンにとっても、何としても実現せねばならない公約であったことは、この状況になって尚強硬な姿勢にあらわれている。

けれど、本当に何が何でもやらねばならぬ正当性のあることか?高齢者への社会保障を減らさねば社会は立ち行かなくなるのか?

そうじゃないでしょう、と思う。

人々への福祉や社会保障を減らして財政を「健全化」する緊縮という考え方は、社会に何ら善きものを生み出さないという、ひとつの結論がもうあらゆる国々で出ている。

緊縮は、貧富の差を拡大して多くの死人を出し、全体の成長も伸び止まり、地球環境も壊す。

緊縮なんてしないほうが、かえって豊かで平和な社会になることは、多くの国々で実証済みだ。

もうこれ以上社会実験なんて必要ない。検討の余地はない。

緊縮とは結局、人々から生み出された富を、権力者や大企業が盗むための悪質な方便でしかなかった。いまだにそれを本当に必要なことと信じ切っている人もいるかもしれないが、結果として、そのようにしかなっていない。

 

そもそも人々から集めた税金は、最大限人々のために使う。当たり前のことだ。

国民国家として全員が生き延びるために、誰もにとって恩恵のあるセーフティーネットを作り、より困っている、弱い人に厚めに再分配するのが、本来の政府の役割だ。

どんな詭弁を使おうとも、その基本から踏み外して、社会保障を必要としている人々から取り上げて、別のことに使おうとする政治は、程度の差こそあれ、純粋に間違っている。

国民の70%が反対しているようなことを、強引に押し通す人々は、もはや国民の代表ではない。

 

その観点から言えば、日本なんてもうほんとにほんとに論外だ。

税金を強引に徴収した当事者への福祉や社会保障をろくに行わないで、多くの貧困者、無職者を生み出して、多くの人が働いた分の正当な報酬も得られない国にしながら、そのようにして浮いたお金で、何兆円もアメリカから使いもしない武器を買ったり、海外に何十兆円もばらまいてたりしているのだから。

国民の過半数が反対していることを、この国の政府はどれだけ強引に押し通してきたか。数えきれない。

逆に同性婚など、国民の過半数がすでに賛成していることをいつまでも認めようとしない。国民よりもカルト宗教の意思を尊重している。

そんな人々が「国民の代表」を名乗る資格ってあるのだろうか?

もうだいぶ前から代表じゃなくない?シンプルに。

 

フランス人がこの状況にガチギレているのなら、我々日本人の立場は?って話だ。

今、日本で62歳ですっぱり仕事をやめて悠々自適できる人が、どれだけいるだろうか。雇用条件を引き下げられての再雇用なんて、当然みたいな話になっている。

街中を見れば、70代、80代の高齢者が寒空の中で働いていて、最近ではおじいさん、おばあさんのマクドナルドの店員も珍しくない。

日本の状況は、明らかに悪化し続けている。

 

フランスでは政府がたった一度議会を通さずに強引に決めた法案に、国が揺らぐような怒りが燃え上がっている。

でも、日本ではそんなことすでに何十回と行われている。閣議決定で。

しかもフランスでは憲法に則って行われたことだが、日本の「閣議決定」には、そんな正当性もない。安倍政権以降、権力者が勝手に決めた謎ルールでしかない。

そもそも、労働環境も年金保障も、日本の現状はフランスにはるか及ばない。

全くもって、立つ瀬がない。

 

こういう話をまるっとしたくないから、フランスのあの凄まじい人数のデモを、この国の大メディアはあまり報じないのだろうなと思う。

全くもってのやぶへび、えっと、じゃあわしらって一体?ってなるしかない話だからだ。

 

 

ビデオ電話で娘氏が兄に「時々バイト先がさりげなーくサービス残業をさせてくるんだよねえ〜」と愚痴っている。

すると息子氏は「それだめじゃん!言わなきゃ」

「えー、先輩に言えばいいのかなあ」と娘氏が言うと、

「先輩に言っても、そうだよねえって同情されるだけだと思うよ。もっと上の人にちゃんと言わないとだめだよ」と息子氏。

わーお、以前の息子氏からは考えられない言葉。

あのふわふわ坊やからそんな言葉を聞く日が来ようとは。

色々あるみたいだけど、引き続きそこで頑張ってみれ、と思う。