みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

坂本龍一さん

新しい園に末っ子を落っことしてきた。

「何が好きですかー?はいはい車ね」と、先生が手際よく色とりどりのミニカーをざらーっとゴザの上に広げると、末っ子の目は車に釘付け、顔も上げず声だけで「ばいばーい」。

こうしていささか拍子抜けするくらいのスムースさで、末っ子の新生活がスタートした。

 

 

坂本龍一さんが亡くなった。

昨夜は末っ子が寝静まった後の薄暗いリビングで、教授のライブ映像の沁み入るような素晴らしい音楽に身を浸しつつ、悼んだ。

教授はどの時代もあくまでクールで格好良く、彼の音楽がもつ胸が震えるような特別のフレーズ感はあまりに圧倒的に美しくて、どの音楽も今見ても全く色褪せないことに改めて驚きつつ。

 

昨夜から私のTLには彼を悼む言葉が溢れている。

音楽関係、映画関係にとどまらぬさまざまのジャンルの人々が、彼にまつわるエピソードを語り合っている。

私の目に触れる範囲だけでこれだけのことになっているので、全体のつぶやきを可視化したら、これは凄まじい現象であろう。

 

最近の教授の様子を漏れ聞くに、別れの時は近いのだろうと思ってはいたけれど、その存在の大きさ、何かぼこっと心に大きな穴が開いたみたいな喪失感は、実際に亡くなって初めて実感させられた。

こんなに多くの人たちが、彼に会った/関わった機会をずっと大事に胸に抱いている。

こんなにも教授が多くの人に敬愛されていたことに改めて圧倒されている今朝である。

 

たくさんの人たちが、コメントやエピソードの中で「温かく励ましてもらった」と書いていた。

クインシー・ジョーンズのドキュメンタリーを見た時もそうで、とにかくクインシーは旺盛に創作活動を続けるかたわら、若いミュージシャンたちを惜しみなく励ましていたことが心に残っている。

彼らのようなその世界の一流の人から褒められ、そのままで大丈夫だと言われ、どんどんやりなさいと背中を押してもらうことが、どれだけ人をエンパワメントすることだろう、やる気や生命力をかき立ててくれることだろう。

 

有名無名に関わらず、年長者のやるべきことの一番って、それに尽きるのではないだろうか。

彼は文字通り身体が動かなくなるまで自分の音楽に向き合いながら、社会に対して言うべきことを言い、世界を良く、美しくしようと挑戦している人たちを励まし続けた。

そのことを色々な人たちの思いのこもった言葉たちからひしひしと感じて、頭の下がる思いだった。

 

私たちは、これからの彼のいない世界を、彼に恥ずかしくないように生きていかなくてはいけない。

スターピースと言うに相応しい素晴らしい音楽を与えてくれたことはもちろん、公的な立場にある人が、政治や社会に対して意見や信念を表明する事なく沈黙する人が多いこの国で、言うべき事を堂々と言い、行動し、支援してきた、ひとつの尊敬すべき生きざまを示してくれた人だと思う。

ありがとうございました。安らかに。

坂本龍一(RYUICHI SAKAMOTO) - 「連載 コロナ時代の日常を生きる一冊 Vol.1<前編> 音楽家・坂本龍一」のアルバム - T  JAPAN:The New York Times Style Magazine 公式サイト