今年61歳になる長年の親友が、コロナ禍でしばらく会えない間に手紙をよこした。
そこには「男として生きるのをやめた。これから自分は女として生きていく。名前は考え中」と書いてあった。
さて、どうしようか。
有名コメディ俳優のウィル・フェレルの身に起こった出来事を、愛らしいロードムービーの形にして私たちにシェアしてくれた、これはそういうドキュメンタリー映画だ。
16日間のカラフルな珍道中を通して、人間の素敵さだけでなく、醜さからも目を逸らさず描いている。
トランスジェンダー 女性として生きるとはどういうことなのか。
この作品は最高の教科書だと思う。多くの人が見るといいなと思う。
さまざまな性的指向を持った人がこの地球にはたくさん存在しているが、LGBTQA的に大雑把にカテゴライズした時、もっとも自死が多いのがトランスジェンダーだと言われている。
この作品を見ると、それがどうしてなのかが少し理解できる。
人間は、一人ひとりが固有の心と体を持つ。
自分の体は、自分が自分である限り、常に目に入り、触れるものである。
トランスジェンダーは、自分の身体が自分にとって受け入れ難い人たちである。
常に常に、不快だし、罪悪感を感じるし、他人を欺いて偽りの人生を生きていると感じている。
私がそうありたい私であろうとすると、他人は気味悪がったり、嘲笑したり、嘆いたり、引いたりする。
そうでなく、これまでと変わらず接し、温かい思いやりを示し、励ます人もいる。
けれども、これまで普通に付き合ってきた人がどんな反応を示すかは、話してみるまで分からない。
カミングアウトすることの最も大きな疑問は、『それでも愛されるか』。
作中、一番心に刺さった言葉。
(どうして他人と関わることを恐れてしまうのか?)
わたしは人々が怖いんじゃない。
わたしは自分が自分を憎むのが怖い。
お前は変人だ。ここで何してる?
そういう思いが心の中にある。
自分が自分を差別する心に苛まれることほど、つらいことはないと思う。
旅の最後、夕方の砂浜。並んで海を眺めながら、ウィルはハーパーにダイヤのイヤリングを贈る。
メイクやドレスがどうであれ、君には女性として自分を美しいと感じてほしい。
ただ君に伝えたかった。自分を素敵で可愛らしいと感じてもいいんだと。
その言葉を笑顔で聞くハーパーの横顔が、夕陽に照らされてとても美しかった。
人生には辛いことがたくさんある。
だけど、こんな友情を交わしあえる瞬間もある。
友情は、この世で一番素晴らしいものの一つ。
ああ、自分もできる限り人に優しくしたい。
自信のない人をほめて励まし、良いことがあったら共に喜び、寂しい人の話を聞き、そばにいるってことをもっとしていきたい。
そんな気持ちにさせてもらえる作品だった。
ウィルとハーパーが友人のクリステン・ウィグに突然電話をかけて無茶振りした旅のテーマソングがエンドロールで流れるのも、粋なサプライズだったなー。
なんて可愛らしい曲だろう、二人にぴったり。