みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

「愛にイナズマ」

愛にイナズマ1枚目の写真・画像|cinemacafe.net

2023年/監督:石井裕也/140分/2023年10月27日〜公開

 

この上なく重たい「月」を先月見たばかり、同じ監督が作ったコメディを面白く見た。

笑えるし、泣けるところも多々あるが、全編を貫いてほとばしるのは怒り。

この作品で石井監督は随分いろんなものに激しく怒っていた。全方位的に怒っていた。

 

アベノマスク、コロナ禍の社会で起こったさまざまな理不尽や馬鹿げたことや正義づらの鼻持ちならない人々、愚劣でパワハラな映像業界人、権力が全てだったり、ルールでがんじがらめだったりして、他人に対する想像力を失ってしまった粗雑な人々。目に見える、単純で分かりやすいものだけで構築されたものをリアリティだと勘違いして何の自省もない愚かで傲慢な人々。

ふっざけんなよと素手で殴りかかるような、王様の耳はロバの耳だとわめき散らすような、ど直球な怒りだった。

 

訳知り顔の大人になる事を俺はぜってーに拒否する。

そして何としてでも人間味というものを死守する。

人間にとって何より大事なのはそういうことだろう?違うかい?

そう叫ぶみたいに描いていた。

そつなく作ることはいくらでも出来るが、決してそうはしない。

石井監督のそういうロックなところがいいなあと思う。

 

それにしても、作中何度も蒸し返すみたいに登場するアベノマスクには苦笑させられた。

あのマスクがどれだけ馬鹿げた代物で、結果的に500億円を超える凄まじい浪費だったか、俺は!絶対に!忘れてやらねえぞと言わんばかり、作品は微に入り細に入り徹底的にギャグにして茶化し続けていた。

私も送られてきたマスクをムカついて受取拒否したクチだからめっちゃ共感した、ありがとう〜。

 

全員安定のキャスティングだったけど、個人的に興味のない佐藤浩市という俳優は、コメディになるとすごくいいなと改めて思った。

自分の「重み」みたいなものがすごく滑稽に映るって事をよく自覚していて、それを楽しんで演じている感じがした。

三谷幸喜の「マジックアワー」の三流役者もすごく面白かったものな。

彼が普段多く演じているシリアスな役はどうにも退屈に感じてしまうのだけど。

 

ともあれ、痛快で愛らしい映画であった。

ハグ大事よね。

ハグしてこう。