
正直に言うと「孤独のグルメ」、もうお腹いっぱいというか、随分たくさん作られてきたものをそれなりに楽しく見たし、しばらく忘れていたくらいだった。
けれど、昨年末にこの対談動画を偶然見て、松重さん自らが監督脚本を担ったこの映画なら、ぜひ見たいと思った。
二人の対話から、松重さんが何を大切に考え、どういう心持ちでこの映画を作ったのかが垣間見える。
松重さんのような人望ある人が、彼を信頼して集った仲間たちの協力のもと、長く積み重ねてきたプロフェッショナルとしての確かなスキルと経験を、少年みたいな純粋なわくわく感をもって形にするのだから、良いものができない理由がないと思った。
松重:
その頃、(松重)「やっぱそうだよな?」(ヒロト)「うん、そうだと思う!」って言ってくれてたことってのは、ベースなんですよ。
そのベースは何がどうなろうと変わらないし、付け加えたことは「そうだよな?」って聞いて、「おお、そうじゃ」って言われたら、やっぱそうだったんだ、って答え合わせができるから。
気がついたら60過ぎのじじい同士の話になっても、あの頃と何ひとつ変わらず、同じレコード針落とした瞬間に同じ音が出てくるのと同じで、同じようなことしか出てこない。
ヒロト:
だって、ユタカ言うとったもん。『映画が作りたい』『演劇にたずさわりたい』。
言うとったよ。
で、たずさわっとる。
二人して10代の頃よ。
『俺岡山からバンドやりに来たんよ』、ユタカは『演劇やりに来たんよ』。
それだけやん。
金持ちになりに来たんと違うもん。
松重:
それと同じことを今も続けてて。そのまんま。
くー、いいなあ。シンプルでいい人生だなあ。
それにしてもいつ聞いてもヒロトの語りって、チャーミング過ぎてメロメロになる。
こんな素敵な60代がいるってことをただ嬉しく思う。いてくれてありがとう。
果たして、松重さんの人柄が隅々まで滲み出ているような可愛らしく、誰もが屈託なく楽しめる映画だった。
あのお決まりの「腹が・・・減った」という定番のシーンは随所にきっちりあるし、気をてらってもいないし、ちょっと寅さんを思わせるようなノスタルジーさえあるんだれけど、不思議とベタさは感じない。
むしろ映画の文法を軽やかに飛び越えてのびやか。
でも、けして独りよがりなわけじゃない。
韓国の大衆映画に通じるような、高いプロ意識に基づいた出し惜しみないサービス精神の映画であり、粗雑なところがない。
SUPで海を渡っている最中に嵐に巻き込まれるシーンと、無人島で五郎が貝にあたってお腹を壊すシーンの松重さんの演技は、無駄に真に迫っていて最高に可笑しかった。
偶然流れ着いた場所に、普通に親切な人たちがいて、その土地土地の美味しい食べ物との出合いに感謝しながら、おいしいおいしいって夢中で食べる。
そのなんの他意もないことの爽やかさ。
人間と世界に対する自然な信頼の感情だけがある。
この世知辛い世の中で、そんなうまい話があるかとは感じさせない何かがある。
それって大げさなようなだけど、ほとんど希望に近いものだ。
ひととき声を出して笑って、少しも退屈しなかった。
映画の感想を書くときに、ほとんど使わない単語だけれど、「大変面白かった」です。