
長編第一作のカナダの監督の自伝的作品。
思春期をめいっぱいこじらせている映画おたく高校生、ローレンス。
見ていて赤面し、ぎゃーと悶えてしまうのは、もちろん、過去のぶざまな自分をそこに見るからだ。
「お前らがなあ、週末にセックスだドラッグだパーティだって浮かれている間に、俺は!家で!欠かさず!SNL(サタデー・ナイト・ライブ)を見ているんだ!」と、クラスメートの前で啖呵を切ってドン引きされるシーンで、思わず隣を見ると、予想通り夫氏が苦笑いしておでこをかいていた。
「週末は決まってSNLを大笑いして見て。それが終わると急に画面が暗転して暗闇に電話ボックスが浮き上がり、精神科医、Dr.デイヴィッド・ビスコットのシリアスな人生相談の番組(「Night Talk with Dr. David Viscott」)が物静かに始まる。そのコントラストがいかにもアメリカの光と影って感じなんだ」
いつだったか、大学時代を振り返って夫氏が言っていた。
彼もローレンス同様、パーティ的なものには無縁だったのかな。
この作品、けったいなのはローレンスだけで、母親をはじめとした周囲は誰もがきわめてまっとうな人たち。
そんな彼らにローレンスは呆れられながらもちゃんと愛され、大事にされている。
自分が恵まれていることの自覚も感謝も特になく、なんなら相手を傷つける言葉を無神経に発し、自分がどれほど傷ついているかを大騒ぎして泣きわめき、思い通りにならないことに駄々をこねる。
恥ずかし過ぎて見ていられないくらいの幼稚な自己中心さ。
ではあるのだが、なんともリアルで生々しい。
私もこういうところから恥をかきながら少しはましになっていったと思う、いや、今もそんなに変わっていないかも・・・。
しかし、思春期とは拡大されたエゴや甘えた自己憐憫だけではなく、本当にシビアでしんどい部分、深刻な傷付きもやはり間違いなくある。
人ひとりが子供から大人になっていくって、誰しも相当あやういところをくぐり抜けていくものだと思うから。
どうしようもない苦しみを彼なりに耐え、必死に生き抜こうとしている健気さも描かれていて、そんな彼を嫌いにはなれない。
母親はなりふりかまわず寄り添おうとし、周囲の人たちもその人なりのやり方でさりげなくローレンスを支えようとする。
今では大人になったかつてのローレンスである監督が、自分が受けた愛の尊さを、後悔と共にひしひしと抱きしめている、そんな感覚がある。
でも、多分監督にとって一番の後悔は、自分の幼稚で身勝手な言動によって本当に大事にすべきだった大切な友人を失ったことなんだろう。
ローレンスは、親友のマットを軽んじ、身も蓋もない言葉で傷つける。
だいぶ時間が経って改心したローレンスは、マットに会いにいき、ごめんと謝る。
もういいよ、とマットは言い、互いに笑顔で言葉を交わす。
さ、これでもうすっかり元通りだ。ローレンスはほっとしてそう思う。
しかし、友達が待ち合わせた場所にあらわれることはなかった。
彼はすでに黙って去っていた。
マットは静かに、きっぱりと、踵を返してローレンスのいる場所から永遠にいなくなってしまった。
悔やんでも反省しても謝っても、取り返しがつかないことがある。
だから、大切な人やものは、大切に扱わなければいけない。
後悔するくらいなら君ははじめからきちんと公平に彼に接しておくべきだったんだ。
少なくとも公平になろうという努力くらいはするべきだったんだ。
でも君はそうしなかった。
だから君には後悔する資格はない。全然ない。
ねえ、いいかい、ある種の物事というのは口に出してはいけないんだ。
口に出したらそれはそこで終わってしまうんだ。
身につかない。
君はディック・ノースに対して後悔する。
そして後悔していると言う。
本当にしているんだろうとは思う。
でももし僕がディック・ノースだったら、僕は君にそんな風に簡単に後悔なんかして欲しくない。
口に出して「ひどいことをした」なんて他人に言ってほしくないと思う。
それは礼儀の問題であり、節度の問題なんだ。
君はそれを学ぶべきだ。
(「ダンス・ダンス・ダンス」村上春樹著より)
私にも、時々悲しい気持ちで思い出す人たちがいる。
もう私の人生からいなくなってしまった、良い人だった。
言葉にならない後悔の気持ちを、言葉にならないまま味わうに任せる。
バイト先のレンタルビデオ屋の店長アラナとローレンスの関係性がいい。
名付けようのない、ある限定された時期だけの、だからこそ他意のない優しさがある関係性に、私はいつも心惹かれる。
後で聞くと、監督にとってアラナは今の自分、ローレンスは過去の自分なのだそう。
だからこそアラナは「あんたはナルシシストなの!」とローレンスの頭をひっぱたくごとく言い捨てるのだし、「それでも私はあなたに認められたい」と苦しい吐露をしたのだなと納得する。
今の自分が過去の自分に「ああはなりたくない」なんて言われるのは、誰だってたまらないことだ。
作品のラストで、「ただのあなたをもっと知りたい」という好奇心だけを胸に「で、君の好きな映画は?」ってローレンスはアラナに聞く。
それは映画おたくにとって、掛け値なしにわくわくする瞬間だ。
ちょっと泣けるくらいにチャーミングなシーンだった。