みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

「サムバディ・サムウェア」「ある結婚の風景」

天国と地獄くらい味わいの違うドラマだった。どちらもHBO製作。

 

「サムバディ・サムウェア」

2022年アメリカ/原題:Somebody Somewhre/監督:ジェイ・デュプラス、ロバート・コーエン/1シーズン7話・各約25分

 

デュプラス・ブラザース(兄ジェイ・デュプラス、弟マーク・デュプラス)は、私のお気に入りのフィルムメーカー。

二人とも俳優としても優れているけれど、こと監督、脚本、製作など作り手として関わった作品は、どれもお気に入り。

いかにもハリウッドサイズのビッグバジェットの作品ではなく、低予算の作品なんだけど、制約を逆手に取って強みに変えてしまうようなアイデアや目の付け所がいつも素晴らしいし、何より人間の何を描きたいのかという部分に深く共感する。

彼らには、毎回そうきたかーと唸らされる。

今回も期待以上だった。

 

カンザスの田舎町が舞台、等身大のアメリカの物語。主人公のサムとジョエルをはじめとした、出てくる人たちのそれぞれのクセの強さ、人間味があって最高だ。

ユーモアたっぷりで、毒っ気も強くて、でも人間の尊厳というものをしっかり見つめているから、思いがけないところでぐっとくる。

1話30分足らずと短いのもいい。毎話、軽やかであたたかな後味が残る、フィールグッド・ムービー。

 

「ある結婚の風景」

ある結婚の風景』(寄稿しました) - 長内那由多のMovie Note

2021年アメリカ/原題:Scenes from a Marriage/監督:ハガイ・レヴィ/ミニドラマシリーズ全5話各話約60分

 

イングマール・ベルイマンのリメイクなんて、相当自信があってのことだろうとは思ったが、予想通りのクオリティ。

リメイク版では、男女の設定が逆になっている。(稼いでいるのも不貞をして去るのも妻、子育てをしているのは夫)

けれど、元作品が1973年にスウェーデン国営放送で放映された後、国内で離婚が急増して社会問題になった作品だったことは知らなかった。

それを知ってちょっと空恐ろしいような気持ちになったが、もう乗りかかった船だからと結局最後まで見た。

見て良かったのかどうなのか。答えはこれから長い時間をかけて分かるのかもしれない。

それくらいにこれは、恋愛関係に基づくパートナーシップの感情の機微、人間心理をあぶり出すように描いた、本当に怖い作品。

少なくとも、結婚前や結婚したての人々には勧めない。結婚をやめたくなるだろうから。ていうか、これはちょっと人間やめたくなるレベルだ。

 

それでも、ここにあるのは紛れもなく生々しい人間の真実の姿だ。愛とは何か、性とは何か、情とは何か。むき出しでぐさぐさ突きつけてくる。

パートナーと共に暮らし、愛し合い笑い合えることは、いろんな偶然やタイミングなどに導かれた幸運な奇跡。

同時にそのような恋愛感情に基づいた関係性は確かなものではなく、いつなんどき壊れるか分からぬ、きわめて脆いものでもある。

いろんなことは、あんまり詰めて考えないまま、死んじまったほうが一周回っていいのだろうなと思ったり、真に心安らかであろうとするなら、人は皆孤独だということを腹の底から受け入れるしかないのだろうとも思ったり。

この作品が見せてくる葛藤に満ちた人間の姿は、まだまだ私レベルでは咀嚼しきれない。