1991年アメリカ/原題:The Fisher King/監督:テリー・ギリアム/138分
夫氏のオールタイムベスト。彼は何かっちゅうとこの映画で例えたがる。もちろん、私も大好きな作品。
映画館での視聴は未見で、今回「午前十時の映画祭12」でかかることを知り、娘氏と3人、気合いを入れて早起きして行ってきた。
観ること自体も久しぶり。30年前の作品だし、さすがにところどころ古くさく感じるのかも、と思いながら見たけれど、やっぱりすごい作品って、時代の試練に耐えて全く古くならない。
ただし戸田奈津子さんの字幕は、今見ると首をひねりたくなるところ多々であった。
一番脂の乗った時期のテリー・ギリアムのパワーにしびれる。
極限まで削っての138分、余計なシーンは一つもない。適当なところが一つもない濃密さ、ぎゅんぎゅんに詰まっている。
独立して粒立ったインパクトを持つひとつひとつのシーンが、次々たたみかけるようにして物語を最後まで運んでいく。
「未来世紀ブラジル」とはまた違う、天才的に個性的なその感覚が、愛らしくファンタジックに表現されているところがやっぱり大好き。
優しくて可笑しい、でも背中合わせに人生の残酷さがある。
その怖さも含めて、とても寓話的な味わいのある作品だ。
セリフや内容が大方頭に入ってしまっていても、全然だーだーに泣ける。
あーこの次このシーン来るーって思って、そのシーンが始まる前に泣いている(笑)
今回大画面で見たから気がつくことがいっぱいあったけど、美術の素晴らしさにも目を奪われた。
パリーの地下室のねぐらや祭壇のデザインとか、作り込みがすごかったなあ。
セントラルステーションのダンスのシーンも、やっと大画面で堪能できて、とても幸せなひとときだった。
赤い騎士のシーンなどの幻想的なシーンの表現が、今見ても全然遜色ないのすごい。
現実と非現実の境目が切れ目なく溶け合っている。
今ある現実とパラレルで、彼の目には実際そのように世界が見えているということがとても自然に感じられる。
4人のキャストそれぞれの一人ひとりの人間味、素晴らしい脚本。全部の要素が奇跡のように調和している。
中華料理屋での最高に可笑しい食事のシーン、撮影も美しく何度見ても愛らしい。
そしてその後の愛の告白のシーン。一度はこんな風に言われてみたい。泣かずに見られたことがない。
人生は、取り返しのつかない失敗や事故や暴力などで、理不尽に損なわれてしまうことがある。
時間はどうしたって巻き戻らず、失われたものは返らず、奪った者に一矢報いることさえほとんどできない。人生は容赦なく、残酷だ。
それでも私たちは皆、人を愛する気持ちを持っていて、たまたま隣りにいた誰かとほんのひと時、愛情を交わし合う。
目の前の人が望んでいることを素直にしてあげる、素朴な親切や優しさが人の命を救う、それが「フィッシャー・キングの聖杯」。
そのような愛情を受けた時、人は人生は生きるに値すると感じることができる。
自分みたいな者も生きてていいのかなと。もうちょっと、頑張ってみようかなと。
大したことはできずとも、隣りの人に優しくありたい。
その気持ちに何度でも立ち返らせてくれる大事な映画。