「疲れたー、落ち込んだー、って一回止まると、そこからもう一度やる気を出してえいやって起き上がるのが一番難しい」と、娘氏が言う。
「部活のシャトルランで、がーっと走って一旦止まったら最後、もう二度と気力が湧いてこなくて走り出せないみたいな」
「若いのにさ、何かこう、ひとりでにむくむくっと、何かやりたい!ってなったりってしないの?」と、私が訊くと、
「スマホと動画とゲームがあるとそうはならない。スマホはね、大切なものをたくさん奪う。パーマカルチャー農園に住んだことでそのことに気付けたのに、最近まただんだん見るようになってきてしまった。あー自己嫌悪」と、頭を抱える。
娘氏曰く、
「スマホと動画とゲームは、「退屈」を片っ端から埋めていくツールなんだということが、暮らすための実作業がたくさんある暮らしの中でよく分かった。
退屈を感じるのが人は苦痛で不安だから、退屈の片鱗を感じると、反射的にスマホを手に取る。
そうすると、退屈は一瞬にして消えてくれる。
でも、それと同時に、何かを考えたり、計画したり、想像したりする脳の余白も一瞬で消える。
人は手持ち無沙汰なぽかんとした時間があるからこそ、「いっちょあそこへ行ってみるか」とか「これ作ってみるか」とか「誰々に久しぶりに連絡してみるか」とかなる。
スマホを見るのと引き換えに、あらゆるアイデアや何かを始めようという気力が失われてしまうんだよ。
引きこもってた時期、ベッドの上で一日中過ごせたのは、スマホと動画とゲームがあったから。それがなかったらあんな狭い場所でとても一日中じっとしてはいられなかった。
今思えば、あんな風にして何日でも生きられてしまうってことが問題だったと思う」
とりあえず、全てを傍に置いて、瞬時に没頭する。
漠然とした苦痛と不安から無思考的な空白の時間に逃げ込む。
気がつけば、自分を含めた多くの大人や子供が、1日のうち相当な時間を、そのような空白の時間に費やしている。
その時間は、テック企業による巧妙なアルゴリズムの投下によってどんどん引き伸ばされ続けている。
そのことが有限な人生の時間をどれほど無為に奪っているのか。
改めて考えるとおそろしい。
私もスマホやネットに関しては本当に後手後手で、特に末っ子のいる週末は「家の中でスマホ、動画を何となく見続けているうちに、1日が終わった。妙に疲れてぐったりしている」みたいなことが多々ある。
これは本腰入れて考えなくては。
そんな時に出会ったこの本。
著:四角大輔/ダイヤモンド社/2022年
ビジネス書やハウツー本の類を、普段ほとんど読まない自分だけに、なんとはなく読みづらい。でも、色々参考になることが書いてあって勉強になる。
とりあえずデジタル情報対策についてのパートを読んでいるところ。
*人間のモチベーションの原動力になる脳内物質「ドーパミン」は、やる気や達成感や集中力の源で、とても重要なもの。でも供給過剰になると、今まで考えていた事、やっていたことを忘れて自分を見失い、どうでもいいことについのめり込んでしまう。
*スマホや動画やゲームは、ドーパミンを過剰に供給する。そうするとスマホ、動画、ゲームに膨大な時間を費やし、夢中になって脳がぐったり疲れ果て、もう何もする余力も残らない。「本当にやりたかったこと」がなんだったか忘れてしまうし、「やるべき事」をする気力も消えてしまう。
*スマホを使うほど脳は深刻なダメージを受ける。特に子供は顕著に脳の発達を阻害する。
*SNSを使いすぎると、リアルな人生以上の比較、競争、嫉妬に晒されるため、自尊心が維持できない。孤独で自分はだめだと感じがち。
ただし、受け身でSNSを使うと不安とストレスは高まるが、自分が発信する、明確な目的を持って使うなど、主体的にSNSを使えば、逆にメンタルに良い影響がある。
⇨脳へのダメージやブルーライトなどの弊害やデメリット要素を把握する。
分厚い本に色々細かいスキルは書いてあるけれど、とどのつまり、大方針は一つだけ。スマホやネットやゲームを使う時のポイントとは、一方的に押し付けられる情報を全て塞ぎ、自分から発信するあるいは主体的に目的を持って自らアクセスする情報だけに限定していくということに尽きる。
あとは、その方針に従って自分が使っているアプリやプラットフォームを精査していくといいと思う。
まずはそこをコントロールできなくては、一律に時間制限とか、意志の力だけでは到底無理。
とにかく、ページを開いてなんとなく目に入った何かを、ちょっとだけと軽い気持ちで見始めてしまったら負けなのだ。永遠に終わらないスクロール沼。
「息を止めて海に潜るような緊張感をもって、当初の目的を忘れないように集中して」SNSを開くって、何を大げさなって思うかもしれないけど、全然大げさではない。
我々の脳は日々ハッキングされているのだ、まじで。
「なんとなく」を侮ってはいけん。
自分の脳が乗っ取られないようにするためには、それなりの気合いと覚悟が必要なのだ。
テクノロジーはとても便利なものだけど、ぼーっとしてると自分の人生の時間を奪いにかかるとても怖いものでもあるということが、気付くの遅すぎではあるんだけど、ようやく身にしみて実感できたのは良かった。