みずうみ2023

暮らしの中で出会った言葉や考えの記録

年末年始の映画(最近の映画)

「再生の地」

2021年アメリカ/原題:LAND/監督:ロビン・ライト/89分

 

小さい子のママをやっていると子供に対して「人に迷惑をかけてはいけません!」というメッセージを強めに発しているお母さんに結構出会う。

それは一見良識的なように見えて、「誰かと関わって謝ったりお礼をしたりする事態がとても煩わしいので、できるだけ関わり合いになりたくない」という気持ちのあらわれである事は、まあまあ多い。

現代社会では、お金で多くのことが解決できるし、お中元お歳暮のようなやりとりもすっかり廃れて、健康で経済的に成立していれば、誰とも貸し借りせずに生きることにすっかり慣れているという人も少なくない。

ところが、子供を育てるのは頭を下げることの連続なので、自分でなく子供のやった事で謝ったりお礼をしたりということが急増して心理的に負担が増す。気持ちはよく分かる。

でも、相応のサバイバルスキルを身につけないまま、誰とも貸し借りを作らずひとりで生きられると思うのは、自分を過信している。

どんなに煩わしくても、やっぱり人に迷惑をかけたりかけられたりしながらやっていくことが人間社会で生きるという事なんだと思う。

 

ロビン・ライト演じる主人公エディは、ほとほと人間に嫌気がさして、誰にも会わない山奥の掘っ立て小屋で一人で生きようとする。

彼女は辛い出来事があって、半ば死にたい気持ちでそういう思い切ったことをしているので、考えが足りないし、大自然を完全になめている。

でも、不便だし不潔だし寒いし簡単に食べ物の調達はできないし、熊は出るし、すぐに立ちゆかなくなって、逆ギレして、死にそうになる。

見かねた地元の漁師ミゲルが彼女に自然の中で生きる手ほどきをするわけだけど、好意はあれどけして踏み込まず、報酬ももらわず、たまたまこんな王子様並みの良い人がいてほんとラッキーだったよね、と思う他にあんまり感想が浮かばなかった。

エディはそれなりに傷を抱えたりもがいたりしているはずなのだけど、どこかスマートにするする行き過ぎているように思えて、あまり共感できなかった。

 

「スタッツ 人生を好転させるツール」

2022年アメリカ/原題:Stutz/監督:ジョナ・ヒル/2022年11月14日〜配信

 

フィル・スタッツ氏は、世界的な精神科医で、多くの著名人の患者を持つ。本作の監督、俳優のジョナ・ヒルもそのひとり。彼のセオリーである「ツール」は広く共有する価値があるという思いで、主治医へのインタビューを作品化したもの。

ただ、レクチャー的な作りでは全然なくて、あくまでスタッツ氏と、ジョナ・ヒルのパーソナルな人生における悲喜こもごもをとりとめなく語り合う。その中で、「こういう必然があってこういう対処(ツール)が生まれてきた」という形でスタッツの考え方が紹介されている。

 

プロジェクトのはじめは、スタイリッシュなドキュメンタリーを作ろうと意気込んでいたものの、行き詰まり、こんぐらかる。

格好つけて都合の悪いものを見せないようにしていては人の心に訴える本物の作品にはならないとヒルは悟って、途中でちゃぶ台返しするみたいに全部種明かしをして、これからは腹を割ってただ話そう、という方向転換をする。

スタッツは融通無碍で、悠然としている。スタッツは、自分をすごく見せようとかいうことには全然関心がない。

 

その後の語りは率直で、見ている側も痛みを感じるほど正直に自己開示されていた。

多くの人を救ってきた凄腕の精神科医も、一流の俳優も、一人の生身のただの人間として、不完全な人生を、愛する誰かのことを気に病みながら生きている。

どんな人もちっぽけで小さな人生をその人なりに切実に生きているということを目の当たりにして、人間がとても愛おしく感じられた。

 

SNS 少女たちの10日間」

ポスター画像

2020年チェコ/原題:V siti/監督:バーラ・ハルポバー、ビート・クルサーク/104分

 

童顔に見える大人の女性数人が12歳という設定でSNSに登録すると、どういうことが起こるかをつぶさに撮影した、社会実験のドキュメンタリー。

果たして、たった10日間で1200人以上の男性が、信じがたいほど卑猥で愚劣な行動を少女たちに次々に仕掛けてくる。

期間中に「普通に楽しくおしゃべりしたい」という目的でアクセスしてきたまともな男性は1人だった。

スタッフが安全性を確保した上で、その中の数人と実際に会って話すシーンも盗撮されている。

いい年をした男性たちが、自分のいっときの性欲を満たすためなら少女の人生などどうなろうが知ったことではないという態度の人ばかり。

もちろんまともな男性は、世の中にたくさんいて、このプラットフォームが特に掃き溜めみたいな場所なんだとは分かっているが、こうも糞みたいな男性ばかりを選択的にずっと見せられてしまうと、男性不信に陥りそうになる。

一緒に見ていた娘氏は「パートナーは女性の方がいいなって思ってしまう、、」と呟いていた。

 

今、十代少女向けのシェルターを運営するcolaboと仁藤夢乃さんが誹謗中傷に晒されている。

そもそも不正はないのだし、攻撃は完全にヘイトでしかないし、私はcolaboに連帯している。

ただ、仁藤さんの「おじさんがキモすぎる」というような表現は結構言葉として強いな、と思っていた。

でも、仁藤さんたちが日頃レスキューしているのは、この映画に出てくるような、自分の性欲のためなら女性に何をしても構わないみたいな男性から被害を受けた少女たち。

10年以上そういうケースに日々向き合い続けている訳で、仁藤さんたちはこの映画のような男性たちが世の中に山のようにいるという認識でずっと生きていると思う。

だとしたら、ああいう言葉になるのも無理ないなあ、と思う。

私たちも映画を見ながら「ひえ〜、キ、キモい〜!」って言葉に出さずにはいられなかったもの。

 

とにかく、まずは自分のネットリテラシーをもっと高めなくっちゃ、と危機感を持った。