2022年アメリカ/原題:White Noise/監督:ノア・バームバック/136分/2022年12/9〜日本公開
そりゃそうであろう。
今のアメリカにいてまともにものを考えられる人間なら、一体なんなんだこれは、どうしてこんな馬鹿げたことが誰にもまともに止められないまま進行し続けているのだ、何が本当のことか分からない、何もかもがあっという間に手垢にまみれていくようなこのカオスってなんなんだ、そう思わずにはいられないんだろう。
今の世界に対する混乱と軽蔑とやるせなさと開き直ったニヒリズムの気分が作品に横溢している。
ここに出てくる大人から子供まで、人々の全部が浮ついている。
行き場のないぎらぎらしたものを抱え、落ち着きなく呼吸は浅く、瞳孔が開いている。
死や不安を恐れて、なんとか金や人間の力でもって、「死んでも」そこから救われたい逃げ出したいと願い、同時にどこか遠くの破壊や破綻や死を高みから眺めることを浅ましいほどに欲する。
何が真実か倫理的か正しい智慧か、もうこんぐらがって何が何だかのカオスの中で、声の大きい人の言葉を真に受けて、わーっと右往左往してやみくもに走り回っている。
今の世界を生きる人々の典型的パターンを見せつけられているよう。
自分もしっかり同類だと感じる。
気の滅入ることだが、その通りだから仕方がない。
バームバック作品としては、一番やけっぱちに振り切れていて、思い切りよくやりたいようにやっていて、私は好きだった。
巨大なスーパー、びっしりとカラフルな商品が並んだ棚が象徴的に出てくる。
破れかぶれの資本主義。
でももう我々はそこに依って立つことでしか成立しないんだ。
破滅するその時まで、買って買って買いまくるのだ。